11/27(火)ステージ2:ダモイ・ポイント

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4時ごろ朝日がまぶしくて目が覚める。今日は偶然部屋の窓が向いている方角が日の出になったようだ。相変わらず夜は夕焼け時に寝て朝起きると普通に昼間になっているため、寝ている間に暗くなっているのかいつ頃から明るくなるのかわかっていないが、少なくとも4時ごろは地平線近くに太陽があることはわかった。起きるには早すぎるため布団の中に潜り込んで寝る。6時に起きて朝食へ。いつも通りビュッフェ。ベーコンやハムはしょっぱくておいしくないのでカットフルーツを山盛り食べる。ビュッフェに置かれている小さくカットされたフルーツはスイカの割合が多いがなるべく他のフルーツを多く取るように狙ってスイカばかりにならないようにする。フルーツはどんな体調でもおいしく食べることができる。それにパンとシリアル、スクランブルエッグ、オレンジジュースという感じ。
 
朝食後にアウトデッキに行ってみると良く晴れているがとても寒い。体には当然疲れは残っているが他の砂漠レースに比べれば本当に楽だ。レストランでおいしい食事をして(多少好みに合わなくても砂漠で自炊に比べれば天国である)空調の効いた部屋でベッドで眠り、ラウンジに行けばいつでもコーヒーやお茶を飲むことができビスケットが置いてある。9時30分からブリーフィングをおこない、10時にゾディアックに乗船開始というスケジュールが伝えられたため早めに準備開始して8時30分には準備完了。おそらく20時までは走るため今日も8~9時間ほど走ることになる。念のため胃薬のタケプロン30を半分だけ飲んでおく。
 
ふと思いついて、隣の部屋にいるレバノンのアリ選手に出国前に作成したオリジナルTシャツ(Adventure Runner's Club)をプレゼントしに行く。このTシャツは世界を走る冒険ランナーというコンセプトで企画作成したもの。アタカマ砂漠のレースでNHKの取材班がアリ選手の取材をしたつながりで、その後のゴビ砂漠のレースやFacebookで何かと気軽に話しかけてくれた友人へのお礼の気持ち。アリは驚いた表情でとても喜んでくれた。
 
しばらくして「ごごごごご・・・」と船に轟音が鳴り響く。だいぶ聞き慣れてきた錨を降ろす音。船が目的地に到着したことを意味していて「レースが始まるのか」と緊張感が高まる(別の言い方をすれば気が重くなる?)。手慣れた手順でゾディアックに乗り込み上陸。日を追う毎に上陸手順に慣れてきてスタッフも事前の注意などをしなくなってきたため全体的に行動が早い。
 
天候は晴れ。空と海の青、陸地と山の白がまぶしい。南極できれいに晴れる日は少なく貴重らしいのだが、今回の自分たちはかなりラッキーなのか。昨日はレースは中止になったものの晴れている中で上陸できたし1日中天気が悪いということがない。上陸したら踏み後をたどってベースキャンプへ向かうように指示されたが踏み後は緩やかな斜面をずっと登っていき丘の向こうに消えている。ゾディアックを着けた海岸からけっこう離れていそうだ。景色が抜群にいいので写真を撮りながらのんびり歩いて行く。
 
スタートになるベースキャンプは緩やかな坂の向こう側の少し窪んだところ。その向こうには急斜面の尾根がありレースのコースはそこを登っていくようだ。今日は少し風があるものの日差しが強く暖かく感じるため1日目よりも薄着で走ることにした。もちろん義務装備でもあるアウターのレインウェアはザックに入れていくのだが、スタート時には着用せず「ファイントラックメッシュ+ロングスリーブ(キャプリーン3)」という南極のイメージからすれば相当の薄着。しかし1日目のキングジョージ島では、この組み合わせの上にレインウェアを着ると向かい風区間以外では暑く感じ汗がたくさん出たため、しっかり走れていればアウターはいらないような気がする。シューズは雪が深いと読んでゴアテックスのトレイルランニングシューズ。初日の軽量重視のシューズよりも防寒・安定性に優れる。あまりに天気が良く景色も素晴らしいためか、今日はスタート前に選手&スタッフの集合写真撮影がおこなわれた。
 
レースは11時30分にスタート、終了は20時の8時間30分のレースになった。私は薄着作戦で日差しあり風なしで快適に走れる服装。一方先頭集団のみなさんはステージ1と同様にアウターまで着込んだ状態。1人だけ赤パンツのマイケルだけはサッカーのユニフォームみたいなものを着てかなりの薄着である。レース序盤は後方からスタート。コースの雪の状況を見るのと前半はそこそこ高低差のある登りが見えているため前の人の踏み後を見ていったほうがいい。
 
今日は3.2kmの周回コースのため周回数が多くなる。先頭集団はおなじみのメンバーで構成され斜面を速歩きで登っていく。少し登ると方向を変え斜面を横切るように少しずつ登っていく。最後に少し急になり尾根の上に登り切った。そこからは尾根に沿って緩やかに下り始める。走りやすいが時々雪に埋まる場所があり固そうなところを選んで走る。尾根の正面には真っ青な海が見え天気が良く気持ちがいい。海が間近に迫ったところで方向を変えて急な斜面を駆け下りる。走る時間が長いため急な下りは飛ばさずゆっくりと下る。そこからベースキャンプまでは平地に近い緩い登りと下りで柔らかい雪面が多くずぼずぼと埋まる。
 
2周目の登り。49人がほぼ1列になって付けた踏み後は多少は登りやすい感じになったかな。特に方向を変えてトラバース気味に登るところが走りやすくなってきた。少し力を入れて前を追い始める。トラバース後の短い登りも雪面が締まっていていたため小さな歩幅で走りきるようにした。尾根の上は向かい風で上着に防風のアウターを着ていないため一気に冷やされる。ちょうど登りで暖まった分が冷やされてから風があまり当たらないベースキャンプの方へ下っていくため登りできちんと動けている間はちょうどいいウェアになっているようだ。アウター着ている選手は登りでけっこう汗かくんじゃないかな。
 
3周あたりからコースの様子がつかめ走るか歩くかの判断が固まってきた。ベースキャンプ前後の比較的平坦な場所は大勢が踏み荒らして場所によっては雪に脚が沈み込む。この区間は踏み固められる気配がなく時間の経過と共にさらに荒れていきそうなため走りにくいところは歩く。前半の登り区間の前半は踏み後に従って歩き、トラバース部分は普通に走り、最後の短いしっかり登りは小さな歩幅で走る。尾根の上の緩い下りは全て走れる。
 
一度は視界に捕らえられなくなっていた先頭集団に追いつき始めた。最初に追いついたのは意外にもアンナ・マリー。1日目の飛ばしぶりから考えるとずいぶんあっさりな感じ。脚に疲労があるのか今日はストックを持って走っているが、走れないほどの急な登りは一部分なのでストックは過剰装備じゃないかなと思う。
 
すぐにオリビエら数人の男性選手には追いつくはずと思っていたがいつまでたっても見えてこない。おかしいなーと思いつつも、早く追いつくことよりも自分が8時間以上安定して走り切ることのほうが大切なので自分の走りに集中。1周が3.2kmと短いため何周したのかわからなくなってきた。1周ごとに周回チェックでカードにパンチで穴を開けてもらうのだがザックの後ろにカードを付けたため自分では見れない。時間で走っているため何周したかは重要ではないのでよいのだけど。
 
赤パンのマイケルを前方に発見。下りで少し脚を引き摺っているような気がする。マイケルの走りの勢いだとおそらく2位を走っていると思われるが他の男子選手抜かしたかわからないなー。あっさりと追いつき歩く登りで抜かす。マイケルが「今何周目だ?」と話しかけてきた。不意に話しかけられたため聞き取れず(英語そんなにわからないので心の準備が必要)、1度聞き直し今自分が何周したのかわからなくなっていたので「I don't know」と返す。マイケルはもう一度大声で「何周目だ!?」と聞いてきたがわからないものはわからん。マイケルちょっと怒ったっぽい・・・。そんなに順位気にしてたって自分のできる限りの走りをするしかないじゃん!
 
登りの最後、走れる登りでさくっとマイケルを突き放し先へ進む。しばらくするとまたもアンナ・マリーを抜かす。上位にいるアンナ・マリーに1周差付けることができた!1日目に14kmの差を付けられていたがこれであと10kmちょっと。レース時間の半分が経過したが水はスタート時に1.5リットル持った状態から1度も補給していない。薄着のウェアが当たったのか汗で水分を失っている感じがなくこの調子だと無補給で最後までいけるかもしれない。スタート時は快晴だったがだんだん曇ってきて風も強くなってきた。今日は調子いいから天気が崩れて打ち切りは嫌だなと思う。
 
ベースキャンプでチェックを受けたときに後ろを見ると1位のビンセントが入ってきた。「ついに1周差付けられてしまったかー」と思ったが、このペースなら2周までは差を付けられなさそう。最初の登りに入るところでビンセントがぴったり後ろについた「抜かすならさっさと抜かせ」と思ったが後ろについたまま抜かさない。どうせならチャンピオンの走りを後ろから見たいのだが何で手抜きしているのかなと思う。そのまま2人でぐるっと1周。単独で走るよりも緊張感持って走れるので、前に出て行かないのならビンセントを前に出さず積極的に前を走って他の上位選手に周回差を付けれるように攻めていこう。
 
ビンセントは下りと平地は速いが登りで遅れる傾向があった。手抜きをしているだけかもしれないが、特に登り終盤の緩い登りを歩いているようでそこで気配が一度消える。後ろを振り返っていないので実際どうかはわからないけれど(怖くて振り返れない)、もしかしたらアンナ・マリーやマイケルもその部分は歩いているのかもしれないな。周回ごとにそこで差を詰めれるから意外とあっさり追いついたのかもしれない。登りではあるが比較的と足場がしっかりしているので無理なく走れる感覚。これは富士登山駅伝の練習が役立っている気がする。ビンセントと2人で5周、6周と周回を重ねていく。いつまで後ろにくっついている気なのだろう。
 
今日はほんとうに体調が安定していて補給食もしっかり食べ続けることができた。競技時間の残りが1時間30分になったところで補給食がなくなってしまった。あと少しだし無補給で行けるのではないかと思いつつも明らかに空腹感がきた。ベースキャンプ付近で先頭集団の関係者が一緒になった。自分、ビンセント、マイケル、男性選手2人(片方はオリビエかな?)の5人の集団になる。食べるものがないため最後に残っていたベスパ・ハイパーを飲む。これはカロリーはないけれどラストスパートのための最後の神頼み。登りは集団のまま登ったが、尾根の上の緩い下りになると誰ともなく(少なくとも私ではない)スパート開始。そろそろベースキャンプの通過時に「レースはここまで」とストップがかかってもおかしくない時間帯に入っているため上位を狙う選手はぎりぎりで切られることのないように先を急ぐということだろう。
 
ハンガーノック気味で力が出ず4人から少し遅れてベースキャンプ通過。19時33分「最後の1周」と言われる。先頭集団のペースが落ちる。「最後の1周」になったためここから先はゆっくりでも成績に差はつかない。気が抜けたためか視界がぐるぐる回りチカチカと星が飛んでいる。完全にハンガーノック。残り3kmほどベースキャンプまで行けば終わりだが苦しい状況になってきた。後ろから声をかけられひろっちが追いついてきた。2人で話しながら進めば少しは気が紛れるかなと尾根の上の下りを走り始めるが脚が前に出ない。先頭集団はとっくに姿が見えなくなっている。
 
今日はまったく脚を止めることなく走ってきたのに最後の最後で下りも走れずふらふらと歩き続ける状態になった。最後の1周に入ってからで助かった。苦しみながらなんとかフィニッシュ。スタッフをしている近藤さんに「今日の1位だよ」と言われる。「ビンセントに1周差付けられているでしょ」と言ったが周回数はビンセントと一緒だと言う。そうだとすれば、おそらくベースキャンプで補給のために脚を止めた時間がありその間に抜かしたのだろう。
 
自分の荷物をまとめ船に戻る準備をしていると日本人選手がみんな戻ってきたので「ハンガーノックでやばい」と言うと美絵さんがパワージェルグミ(だったっけ?)を分けてくれた。しかし急速に体から力が抜けていく。自分で発熱できなくなってきたのか体の震えが止まらない。本当にやばそうなことに気がついたのかみんなが手分けして上着を着せてくれたり荷物をまとめたりしてくれている。ここからは記憶が断片的です(笑)

ベースキャンプからゾディアックに乗り込む場所までは少し距離があり歩いて行く。気がつくと左肩を武石さんに、右肩をひろっちに支えられ運ばれている。近くを美絵さんが歩いているが妙に大きい荷物を抱えている。あー俺の荷物持っているのか・・・。申し訳ないと思いつつも何もできないのでおとなしく運ばれていく。

 
ゾディアックから船に上がり最後の力を振り絞って部屋へ。とにかく体温を上げなければいけない。シャワーに入り思い切りお湯を熱くして浴びるが震えが止まらない。そのころ私の荷物を持って船に上がった美絵さんはスタッフに私のチェックカードを渡さなければならず荷物のどこにカードがあるのか奮闘していたらしい(スミマセン)。ひらすら熱いシャワーを浴び続ける。その間にも部屋には繰り返しスタッフが「彼は大丈夫か?」と尋ねてきて英語のわからないひろっちは大変だったらしい(スマン)。どうにか震えが収まってきたためざっと体を拭いてベッドに潜り込む。一瞬で意識はブラックアウト。
 
目が覚めると午前2時。すでに外は明るくなっている。暗くなる時間ってないんだなー。空腹なのと朝からまたレースがあるかもしれないためそのまま寝てしまうわけにはいかない。簡単に荷物を整理し、夕食にしようとひろっちと物々交換でもらったカップラーメンを探す。見つからなかったのでひろっちの荷物を漁ってそこからカップラーメンを1ついただく(爆)ラウンジに行って夕食。ここにくればいつでもコーヒー、お茶、お湯を飲むことができクッキーも置いてあるのでとても助かる。カップラーメンにお湯を入れて、コーヒーに砂糖をたっぷり入れて何杯も飲む。暖かい飲み物が体に染み渡る感覚。生きてて良かったー♪3時ごろ再度就寝。
 
 

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